ニッパヤシ

学名:Nypa fruticans  

ニッパヤシ(ニッパ椰子) ヤシ科ニッパヤシ属

東南アジア・オーストラリア原産原産で、日本では沖縄県の西表島にのみ自生し、海岸・河口の湿地帯に生育する常緑小高木。

マングローブ林の縁などに多く生育し、樹高は5-9mになるが幹はなく、湿地の泥の中に二叉分枝した根茎を伸ばす。地中で分枝し、葉は地上から叢生する。葉は羽状全裂で大きく長さ5-10m、小葉の長さは1m程度で、線状披針形、全縁、革質で光沢があり、先端は尖る。裏面脈上に褐色の圧毛がある。肉穂花序は長さ1-2mで、地際から突出し、雌雄個別に分岐する。花柄は径3-4cmで、多数の包葉がある。雄花は鮮黄白色で長さ8mm、多数が花軸に放射状に密生し、長さ9cm、幅2.2cmのガマの穂状をになり、2-3本が花柄に頂生する。雄蕊は3本で細長く、長さ5mm、花弁は3個、細長い舟形で、長さ5mm。雌花は大きく、径10cmの集合頭状花序を作る。
花期は7-8月。
果実は特大のクリの印象で、扁平な倒卵形、長さ10cm、幅7.5cm。表面は滑らかで黒褐色を呈し、縦縞の脈条がある。果実の両側には稜角があり、頂部には堅い鉤状の曲折した突起がある。集合果をなし、成熟すると散落し、発芽する。種子は倒卵形、胚は下部にある。果実の結実には30℃以上を要する。

※ 名は、学名のNypaから。なお現存するニッパヤシ属は1属1種。(7000万年前の地層から近縁種の種子化石が発見されている)
 繁殖は、根茎を伸ばした先から地上部を出す栄養繁殖と、種子による繁殖。集合果から分離した種子は直径尾4.5cm程度の卵形で海水に浮き、海流に乗って漂着した場所に定着する海流散布により分布を広げる。
 葉は軽く繊維質で丈夫であるため、植生が豊富な地域では屋根材・壁材として利用される。マレーシアやインドネシア等ではカゴを編む材料として用いられる。
 開花前の花茎を切断した部分から溢泌する樹液は糖分が豊富で、パームシュガー(ヤシ糖)、TubaやTuakと呼ばれるヤシ酒、Cuka Nipahなどと呼ばれるヤシ酢の原料とされる。
 未熟果はAttap chee(広東語 亞答子、中国語 yàdázǐ)と呼ばれ、半透明の団子に似た食感、外観の食品となり、東南アジアや香港のデザートに使用される。
 西表島のニッパヤシは、上流で行われている森林伐採や農地開拓に伴う土砂の流入による根茎の埋没や、他の樹木の生育による遮光による弱体化や枯死に加え、園芸目的の盗掘などにより個体数が減少を続け、群落自体の衰退が危ぶまれている。環境省のレッドリスト、絶滅危惧IA類 (CR)。


主写真撮影日:2017-11-26   撮影地:東京都江東区 夢の島熱帯植物館温室
撮影者:MOMO